私は天使なんかじゃない
TO VEGAS CONTINUED
その道はベガスへと続く道。
グレイディッチの一掃終了。
援軍として来ていたレギュレーターのアッシュとモニカさんは途中でいなくなった、別件らしい。
俺たちは最終的な処理をメガトン市長ルーカス・シムズに任せて街を後にした。
そして……。
「俺たちの勝利に乾杯っ!」
何度目の乾杯だろう。
まあいい。
祝い事だからな。
音頭取りはトンネルスネークのボスである俺様だっ!
騒ぎ過ぎという感はある。
俺たちはテーブルの1つを占領しているが別に貸切というわけではない。別の客たちもいるが……まあ、騒ぎ過ぎだな、視線が痛い。もっとも視線を痛がるほど素面でもない。
場所はリベットシティ。
ゲイリーズ・ギャレーという、リベットシティ市場の一画にある飲食店。
そこで現在打上げ中。
参加しているのはトンネルスネークのボスである俺、メンバーのレディ・スコルピオン、ベンジー、カンタベリー・コモンズのハンター3兄弟イッチ、ニール、サンポス、計6名。
メカニストはアンタゴナイザーと一緒にカンタベリー・コモンズに帰った。
彼女が能力使い過ぎて打ち上げどころじゃなかったようだ。
連絡先は交換したし折を見て連絡なり会いに行ったりしてみるとしよう。
ケリィのおっさんもカンタベリー。
現在入院中だ。
Mr.クロウリーはイッチ達に5000キャップの報酬を払ってアンダーワールドに帰って行った。今回出費した分を稼がなきゃとか言ってたな。
ビリー、ヴァンスたちはまだグレイディッチ。
なので打ち上げは6名。
盛り上がりには欠けるかもだが飲めるだけよしとしよう。
しばらくバトルは勘弁だぜー。
「ボス」
かなり酔っているようなベンジーが俺に声を掛けてくる。
……。
……俺がいない方向を向きながらな。
酔ってる?
酔ってるのか、ベンジー。
ボスって言ってるからたぶん俺に声を掛けているのだろう、たぶんな。
「どうした?」
テーブルには所狭しと料理が並んでいる。
酒瓶もだ。
俺はビールを飲みながらマカロニ&チーズを食う。
うめぇー。
「ボス、今日は愉快だな」
「お前飲み過ぎなんじゃねぇのか?」
「大尉にもそう言われたな」
「大尉?」
「パターソン大尉だ。俺が所属していたパターソン特別攻撃部隊の隊長だ。良い男だった」
「ふぅん」
誰だそれ?
分からんがベンジーは誇らしげに言っている。
ドサ。
サンポスが酔い潰れて椅子から落ちた。
それをニールが見て豪快に笑い、豪快に飲んでいる。長男のイッチはレディ・スコルピオンを口説こうとしているようだが、当の本人は涼しい顔してワインを飲んでいる。スルースキルはマックスか。
「ちょっとお客さん」
「ん?」
騒ぎ過ぎか?
声を掛けてきたのは女性店員だ。えらい美人だな、惚れ惚れする。
ん?
ふと視界にモニカさんたちが飛び込んでくる。モニカさんたち、と言ってもアッシュがいるだけじゃない。いやアッシュもいるけれど、他にも10名ほどいる。もっといるな。いくつか大きな木箱を運んでいた。
グレイディッチ離れてリベットに来てたのか。
何の為に?
向こうはこちらに気付いていない、声を掛けようとすると……。
「ちょっと」
女性店員にまた声を掛けられる。
まあ、いいか。
モニカさんたち仕事みたいだし。搬送の仕事か何かだろ、たぶん。買い出しかな?
「お客さん、話聞いてる?」
「ああ、すまん、俺たち羽目を外し過ぎてるか? 悪いな、静かにするよ。お前らちょっとトーン落とせって」
「それもあるけど約束は?」
「約束?」
何の話だ?
「女王蟻のフェロモン頼んだんだけど、結局見つからないってこと?」
「あー」
頼まれたな、確か。
アンジェラって言ったっけ、この子。
あの時は別に蟻穴に突撃するとは思ってなかったが……うーん、確かにゲットできるチャンスはあったわけで。俺自身は遭遇してないけど地上に女王蟻が這い出てきてどこかに飛び去ったとか何とか。
タイミングが悪かったな、うん。
「悪い」
「またなの? 前に赤毛の子にも頼んだんだけどスルーされてるし」
赤毛の子ってまさかミスティか?
ありえるな。
あいつどんなことでも首突っ込んでるなー。
「早くフェロモン使って誘惑しなきゃなのに。既成事実と子供作れば完璧なんだけどなぁ」
「……」
さらっと怖いこというな、この子。
「そんなに美人なんだから正攻法で行けよ」
素直にそう思う。
「確かに私は美人よ、とびっきりの美人。誰だって私に恋するわ、ちょっと誘惑しつつ胸元見せたらあなただっていちころよ? でも相手は聖職者だからね、正攻法じゃ駄目なのよ」
「……」
さらっとすげぇこと言うな、この子。
ドゴォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォンっ!
突然イッチが吹っ飛ぶ。
レディ・スコルピオンがフルスイングして殴るのが見えたような。
ちっ。あいつから舌打ちが聞こえる。
何故に?
「おーおーボスはもてるなぁ」
ベンジーが茶化すもののすぐに黙った。
レディ・スコルピオンの視線が怖かったからだ。
……。
……何だあいつ何切れてんだ?
こえぇー。
「じゃ、じゃあ、私はこれで」
「お、おお」
「ハントに頼もう、彼ならなんとかなるでしょ」
アンジェラは何かを察したのか忙しいからなのか俺たちの傍を離れて行った。
賢明だと思う。
さて。
「俺ちょっと抜けるわ」
「どこか行くのか、ボス。……何というかメンツ減るとレディ・スコルピオンの暴力に合う確率が増える気がするんだが……」
「全部終わったって報告しておいた方がいいと思ってよ」
「報告? 誰に?」
「Dr.マジソン・リー」
リベットシティを歩く。
何だかよく分からないがリベットシティ評議会は解散し……正確には完全に瓦解して機能せず、今後はBOSの指揮下に入った、らしい。
よく分からんがそういう話を聞いた。
問題?
……。
……まあ、ないんじゃね?
元々メガトン共同体に対して水利権で牽制したり、妙に張り合ってた。もちろん張り合うことはいい、相互に競争するのはいいことだ。問題はリベットの張り合い方はどちらが上かという観点だった
ってことだ。むしろ自分たちが上って感じだった。今後はBOS主導になるのであれば、前よりはマシになるんじゃないかな。
少なくともBOSとメガトン共同体はいい関係のようだし。
「うー」
完全に酔ってるな。
ふらふらする。
あー、いや、リベットシティが傾いているのか。
この空母かなりガタがきていそうだ。
この間来た時はセキュリティがうろうろしてたけど今日はまばらだ。
「ダンヴァー司令が重傷で不在だから警備シフトがガタガタだな」
「確かに」
セキュリティ2人の話が聞こえる。
ふぅん。
なるほどね。
「ご都合主義万歳」
何となく呟く。
何となくだ。
警備の責任者が不在だからこんなに警備員が少ないのか。まあ、船の通路は狭い。少ないに越したことはない。
「ブッチ・デロリア」
「ん?」
呼び止められる。
振り返る。
カウボーイハット、コート、腰に44マグナムをぶら下げている人物がいた。
……。
……通り過ぎたか、俺?
いなかったぞ、さっきは。
酔ってる?
それともこの人の隠密能力の高さか?
典型的なレギュレーターファッション、ただしそこらにいるメンバーとは格が違う。要塞で何度か会ったけどなかなか苦手な人だ。
ソノラ。
レギュレーターを統括している人物。
「よ、よお、ソノラさん」
「こんにちは」
苦手だ。
微笑しているけどまったく目が笑ってない。
「あれ?」
「何か?」
「ソノラさん、右手怪我してるぜ?」
「……ああ、本当だ。ファイルを払いのけた時に切ったようね」
「……?」
「別にいい。気にしないで」
「そうかい、まあ、消毒した方がいいぜ? ところでレギュレーターを市場でたくさん見たけど何してるんだ?」
「新本部立ち上げの為の物資をリベットで大量に購入したのよ。食料とか弾薬とか武器とか。あと、念入りに酒精の類も」
「ははは。意外に話が合いそうだ」
「ところでブッチ・デロリア、あなたに聞きたいことがあって呼び止めたのよ」
「聞きたいこと?」
何だ?
「ティリアスって誰?」
「ティリアス? ああ、優等生のことだ」
そうか。
あいつはティリアスじゃなくてミスティで通してるからな、本名をソノラさんは知らなかったってわけだ。
だが何だって急にそんな話をしてる?
「ミスティが本名じゃないのね」
「あれは愛称だ」
「ふぅん。これは個人的な興味なんだけど、どうしてミスティなの?」
「まあ、何だ、餓鬼の頃にボルト101でミスターとかミスって付けるのが流行ったんだよ。であいつはミス・ティリアスになるわけだろ? いつの間にか縮まってミスティになってたんだよ」
「ミス・ティリアス」
そこでソノラは笑った。
意外に可愛らしい笑いだ。
……。
……目が笑ってないけどなー。
怖い怖い。
「何かおかしいか?」
「いえ。実にレギュレーターらしい、と思いまして。彼女になら託してもいいかもしれませんね」
「……」
よく分からん人だ。
「ところでどこに行くんですか、ブッチ・デロリア」
「Dr.マジソン・リーの所だ」
「それなら無駄足ですね。彼女は旅立ったらしいですよ、連邦に」
「はあ?」
「リベットシティの利権にまみれた体制とかに嫌気がさしたとか。私はそう噂で聞きました。誰かに聞けば詳しいことが分かるかもしれません、誰に聞けばいいのかは知りませんけど。リベットシティ
は混乱しています、色々なことがありましたから。情報も錯綜していますし足取りを掴むのは困難かもしれませんね」
「マジかぁ」
優等生が悲しむだろうな。
だが仕方ないか。
研究一辺倒のような人だったし利権主義のこの街が嫌になったのも仕方がないだろう。
「そうそうブッチ・デロリア、ストレンジャーを倒したとか」
「ああ。余裕だったぜ?」
「トンネルスネークとやらを意識せねばならないようです。時に組織は方向性に迷うときがある、ですがあなたなら大丈夫でしょう。敵対はせず、行きたいものです」
「大丈夫さ。俺たちはワルであって、悪じゃないからな」
「ふふふ」
「さて、飲みに戻るか。ソノラさんもどうだい?」
「あいにくですが私はこのまま新本部に戻ります。最後に一つ、トロイという人物についてです。伝説の運び屋、とも呼ばれた人物、今はどこにいますか?」
「あいつは旅を続けているはずさ。自分の明日を探してな」
「そうですか。それぞれに道がある。残念ですがそういうことですね。レギュレーターに勧誘したかった」
「ははは」
そうさ。
あいつは生きている、そして旅をしている。
俺はそう確信している。
俺はそう……。
キャピタル・ウェイストランド。
西海岸へと向かう道。
西に西にと進んで行く人影がある。
1人と、1機。
「挨拶なしで去るのは心苦しいのか? まあ、分からんではないが、別れを惜しむのは趣味じゃないんだよ、俺はな。分かるだろ?」
「<BEEP音>」
「そうだ。お前も一人前だな」
「<BEEP音>」
男の名はトロイ。
ディバイドという街を作った、西海岸で知らない者はいない男。伝説の運び屋。
その異名はNCR、リージョンですら恐れる。
モハビ・ウェイストランドにある諸勢力と懇意であり、敵に回せばモハビ全土が敵となる。その為、NCRもリージョンも手が出せない人物。
男は歩く。
復讐の旅路の為に。
「ED-E、俺は死んだことになっている。このまま死んだ振りをしてやるさ。そしてMr.ハウスの喉元に食らい付いてやる。何か異論は?」
「<BEEP音>」
「それでこそだ。行くぞ相棒、俺たちの旅の始まりだ」
トロイとED-Eを遠くから見守る男がいる。
男は独語する。
「モハビに戻るか、運び屋よ。そのエンクレイブのアイポッドを東に持ち込んだのは、俺だ。それはディバイドの巨人を呼び覚ます鍵となる。ディバイドを始まらせ、終わらせたお前が
それを得る、運命は未だ回っている、終わっていない。長い旅路の果てに最終的な答えを出し再びディバイドにお前が戻ったその時こそ」
それは長い長い旅の始まり。
2人の運び屋は孤高の道を歩む。
答えを出す為に。
運び屋は自身の運ぶべき言葉と思いを届けるだろう。
ディバイドの地に。
そして……。
「その時こそ、俺たちのどちらかが終わる」
TO VEGAS CONTINUED